なぜ腰痛は起きる?原因が特定できる腰痛、特定できない腰痛とは?その原因と対処方法 Vol.1
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腰痛ってなぜ起きるの?
腰痛の原因や、腰痛の予防や対処について、また、予防策と腰痛時の正しいケアの仕方を紹介します。
執筆・監修者

村木 良博
(有)ケアステーション 代表取締役 スーパーバイザー
(財)日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー マスター(JSPO-ATマスター)
【役員】
(公財)日本オリンピック委員会 強化スタッフ
(公財)日本テニス協会 ナショナルチーム委員会
(公財)日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー部会員
(社団)日本アスレティックトレーニング学会評議員
元日本バスケットボール協会医科学研究部員
元日本陸上競技連盟医事委員会トレーナー部会長
【講師】
花田学園アスレティックトレーナー専攻科非常勤講師
東京有明医療大学 非常勤講師
東京医療福祉専門学校教員養成科 非常勤講師
腰痛の主な原因
腰痛は、スポーツばかりでなく一般にも多い症状の一つです。腰を痛めると、起き上がれない、まっすぐに立てない、歩けないなど普段の生活にも支障がでるつらい症状です。
腰痛と言ってもさまざまな原因があって、腰の痛みを生じさせています。
原因が特定できるものとそうでないものがあり、その多くは原因がつかめない筋筋膜性(きんきんまくせい)の腰痛症と言われ、なんと腰痛の8割を占めているようです。

原因が特定できる腰痛
原因が特定できる腰痛の代表的なものには以下のようなものがあり、脊柱(せきちゅう)や脊椎(せきずい)に起因しているものが多くあります。a) 腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア
よく聞きなれた腰痛を来す原因の代表格でもあります。一般的に中年層の方々の腰椎椎間板の変性による慢性的な腰痛としてとらえられていますが、スポーツなどによるひねりや打撃、転落などの突発的な外力により椎間板が損傷することもあり若年層に多く見られます。
椎間板は、椎骨と椎骨の間に繊維輪(せんいりん:線維性の軟骨)がクッションのように収まっていて、その中心部分には髄核(ずいかく)と呼ばれるゼリー様の物質が、さらにクッションの役割を高めるようになっています。
この繊維輪が変性(病変)または強い外力により損傷されると、中にある髄核が後方へ脱出(飛び出る=ヘルニア)し、神経を圧迫することによって局部の痛みや知覚鈍麻(ちかくどんま)や麻痺(まひ)、坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)などの神経根症状(しんけいこんしょうじょう)を来すものです。
したがって、X線画像ではこのような軟部組織は映らないため、MRIによる画像診断と神経根症状を誘発するテスト、あるいは知覚や筋力の低下、左右差が確認されて腰椎椎間板ヘルニアと診断されます。

図②:腰椎 椎間板
b) 腰椎分離症 腰椎すべり症
分離症では、椎体と椎体をつないでいる関節部分(椎間関節突起:ついかんかんせつとっき)が離れた状態を指します。この離れた状態は、ヘルニアと同じくスポーツによるひねりや打撃、または繰り返しのひねり動作などの外力によって起きるものもありますが、先天的にこの部分がつながっていない形成不全のこともあります。
後天的なものには、とくに体を回旋させる運動で生じやすく、その多くは発育期の疲労骨折とみられています。
一般的には片側だけの片側性ですが、先天的なものには両側性のものがあり、これは上下の椎体を支えることができなく、椎体が前へすべり出てしまうことがあります。
これが「腰椎すべり症」です。
いずれも脊髄神経を圧迫するために、つらい神経症状が出る原因となります。
この診断には硬いものを映し出すX線撮影やCTでの画像診断が必要となります。

c) 腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
脊柱管狭窄症は、脊髄神経が通る脊柱管の一部に、加齢に伴う椎間板の変性などによって、狭くなり神経が圧迫され神経症状が現れるものです。脊柱管狭窄症は、腰椎部分だけでなく、頸椎部分にも見られ、頸部では動的な狭窄(顔の向きや傾きの動き)により症状が増減することがある。
狭窄症があることで、軽い外力刺激によっても神経を強く圧迫する危険性があるため注意が必要です。
X線やMRI画像などで狭窄程度を確認することが必要です。

原因が特定できない腰痛
多くの腰痛は、X線やMRIなどを撮っても骨やその周囲の軟部組織にも問題がなく、痛みの原因がつかめない腰痛で、筋肉や筋膜に由来するとの推測から「筋筋膜性腰痛(きんきんまくせいようつう)」とも言われています。慢性の腰痛やぎっくり腰、過労性の腰痛などはこれらに含まれるものです。

腰部の筋肉
腰は、肉月(体を表す)に要(かなめ=最も大切な部分)と書き、からだの中心部で最も大切な部分とされています。要とは、扇が広がる根元の部分が金具で束ねられている部分を指します。これがしっかりしていないと扇がきれいに広がらないという意味と、すべてが集まる中心部分という意味があります。
(金具で止められていたことから、金具がなまって「金目」=「要」とこじつけられたという説もあります。)
とにかく、人の身体にとっても、臀を含む下肢の筋も骨盤(腰)に集まり、背中の筋肉が腰(骨盤)に集まってくる重要な部分です。
つまり上半身や下半身の動きは、腰が中心となって動いていると言ってもよく、すべての運動に関係してきます。

腰痛のメカニズム
骨盤に関わる筋肉(お尻や太もも、背中など)や腰背部の筋肉(広背筋、脊柱起立筋、腰方形筋など)が疲労などで硬くこわばっている、前後左右のバランスが崩れているときなど、筋肉に余裕がない状況で、少しの動作不良が起きると腰部周辺に激痛が走る「ぎっくり腰」などが発症することがあります。これは季節の変わり目、とくに夏から秋へ、冬から春へと気温や湿度などの環境が変わるときに多く発症が見られることからも、寒暖差が激しい環境の変化に順応するさいに体にはとても大きな負担がかかります。
また重い物を運搬する職業の方や、長時間の立ったままの仕事や、前かがみや背の反り返りを繰り返す方は、筋にかなりの労作性の疲労が蓄積します。
その蓄積された疲労と、冷えなどが重なり、筋肉の状態が良くないところにわずかなバランスのひずみが生じて腰痛を発症するケースが多く見受けられます。
急激な痛みではなくとも、疲労が積み重なり徐々に腰への負担が増加すると、腰に痛みが出ることがあります。
要因には、筋の硬化、弱化、アンバランス、過労、冷え、加齢、季節の変化、環境の変化など様々な要因が関係していると思いますが、はっきりとした原因や病態は定かではありません。

腰痛を予防する
一度、発症するとつらい腰痛を予防するには、どのようなことをすればよいのでしょうか?腰痛の原因は多種多様な要因が考えられますが、まずは身体を支える筋肉の状態を良い状態にすることです。
よい状態とは、筋の柔軟性(硬くこわばっていない)があり、身体を支えるあるいは運動に耐える筋力が十分であること、筋の釣り合うバランスが整っていることです。
具体的にすべきことは、スポーツであればウォーミングアップやクールングダウンを十分にする。とくにクーリングダウンは、スポーツで酷使した筋のこわばりや疲労を取り除くためには大切です。
クーリングダウンでは、運動を止めてしまうと、筋温が急激に下がり、筋のこわばりが生じてきます。
それを徐々に平常人状態へ戻すことで、疲労の蓄積を防ぎ身体への負担を少なくしていきます。
運動が終わったら、軽くジョギングをして、筋温が急激に下がらないように、こわばった関節や筋肉を大きく動かし、ストレッチなどで伸ばすことによって柔軟性を保ち、疲労の蓄積を予防します。
さらに帰宅後には、ゆっくり入浴(シャワーではなくバスタブに浸かる)と湯船に浸かり身体を温め、その後にストレッチなどで筋や関節のこわばりを取り除くようにすると効果的です。(筋肉痛の予防にも効果があります)

普段の生活では、クーリングダウンの意識はないかもしれませんが、身体が疲れている、こわばっていると感じたら、ストレッチや体操、などで体を温めることで疲労の解消を心がけましょう。
ストレッチでは、腰周囲の筋肉(お尻や太もも、背中など)を中心に行うとよいでしょう。
とくにお尻の筋肉を柔らかくすることが効果的です。

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