手首が痛い原因は腱鞘炎だけじゃない!痛みの原因と対策を紹介
公開日:手首のトラブルはスポーツに限らず日常でも転倒して手をついたり、手の使い過ぎによって痛めることが多い部位です。
執筆・監修者
村木 良博
(有)ケアステーション 代表取締役 スーパーバイザー
(財)日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー マスター(JSPO-ATマスター)
【役員】
(公財)日本オリンピック委員会 強化スタッフ
(公財)日本テニス協会 ナショナルチーム委員会
(公財)日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー部会員
(社団)日本アスレティックトレーニング学会評議員
元日本バスケットボール協会医科学研究部員
元日本陸上競技連盟医事委員会トレーナー部会長
【講師】
花田学園アスレティックトレーナー専攻科非常勤講師
東京有明医療大学 非常勤講師
東京医療福祉専門学校教員養成科 非常勤講師
目次
手首とは
手首(手関節)は前腕(ぜんわん)の橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)と手の根元にある、8つの手根骨(しゅこんこつ)から構成される骨との接合部(関節)を言います。手首のトラブルは、この関節のつなぎ目にある靭帯(じんたい)や軟骨、あるいは骨からくるものです。
手首の痛みの原因
手首は日常生活において使う頻度の高い部分なので、一度痛めると日常生活に支障が出ることも多く、治りきらないうちに再び使い始めると、関節周囲の筋腱(きんけん)に負担がかかり、別のケガにつながることもあります。手首にかかわる痛みの原因と対処方法について説明します。
捻挫
転倒などで床や地面に手を着く、手が急に捻られるなど、急激な力が手首にかかり靭帯、腱、軟骨、骨が損傷されることがあります。捻挫は、骨と骨をつないでいる靭帯が、伸ばされたり、切れてしまうことで手関節の強い痛みや腫れが出てきます。
手関節の靭帯は、小さな骨が密集しているため、どこの靭帯を痛めているのかが特定できなく、骨折などを伴っていることもあります。
痛みや腫れが大きく変形し、動かせないほどであれば医療機関での検査が必要です。
骨折
骨折は、骨自体が損傷され、変形や著しい腫れが出てきます。とくに転倒や尻もちをつく等のアクシデントは、とっさに手を床や地面に着いてしまいます。尺骨(しゃっこつ)と橈骨(とうこつ)端が折れてしまうコーレス骨折は、手関節の拘縮(こうしゅく)や転位など難治性になることが多く注意が必要です。
コーレス骨折
床に手を着くと同様の動作で親指の付け根にある舟状骨(しゅうじょうこつ)も骨折することが多く見受けられます。これは、手を地面に着いた際に橈骨(とうこつ)と地面の間に舟状骨(しゅうじょうこつ)が挟まれる形で、大きな力が加わると舟状骨(しゅうじょうこつ)が骨折を起こすことがあります。
親指を外側に開くと、手首のところに2つの腱が三角形をなすくぼみの部分が舟状骨(しゅうじょうこつ)です。
この腱やくぼみが腫れて見えなくなってしまう、また、くぼみ部分を押すと強い痛みが出るなどの症状があれば、骨折を疑います。
捻挫との見分けが困難な場合もありますので、医療機関での診断が必要です。
損傷(三角線維軟骨複合体損傷)
手首の小指側の関節にあるTFCC(三角形の線維性軟骨)が、転倒などの直接外力により損傷されることや、テニスやバドミントンなどラケットを振る動作を繰り返すスポーツに見られます。ラケットの重さ・大きさなどの変化に伴い、複雑なラケット操作を行うテニスでは、手首に負担のかかる動作を繰り返すことで、近年発症する例が多くなっています。
TFCCを損傷すると、手首の小指側の関節に不安定をきたし、特に手首を捻る動作に支障が出るため、ラケット競技では手術に至る場合も少なくありません。
スポーツ時には、小指側の関節に圧迫が加わり動きを安定させるため、サポーターやテーピングを使い、できる限り回旋や圧迫への負担を減らすことを心がけましょう。
手根管症候群、ギオン管症候群
手根管(しゅこんかん)(手首の手のひら側にある腱や神経、血管などが集まって通っているところを)やギオン管(手根管の小指側にある神経や血管が通っているところ)が圧迫されて神経症状などが出ることを、手根管症候群、ギオン管症候群といいます。ラケット競技、体操、車いすなど、手首の曲げ伸ばしを繰り返すことが多い競技に見られます。
いずれにせよ神経や血管が関係しているので、痛みやしびれ、知覚障害が出ることがあり、医療機関での診察と治療が必要です。
ガングリオン
ガングリオンは皮下に発生する指先大の柔らかな良性な腫瘤(しゅりゅう)で、手関節によくできるとされています。痛みの伴うものは腫瘤を取る(注射器などで吸引する)こともありますが、再発を繰り返すことが多いとされています。
また、ガングリオンが手根管やギオン管を圧迫することで、手根部の神経症状が出ることもあります。
ガングリオンが大きく硬くなり、それに伴い痛みやしびれ、関節の動きなどの制限があるようであれば医療機関で対応を相談することがいいでしょう。
キーンベック症候群(月状骨壊死)
手根骨の1つである月状骨(げつじょうこつ)が血行障害によって「壊死(えし)」してしまう病気です。10~40歳代の男性で手首にかかる負担が大きい職業の方に多いとされていますが、女性でも手首を使うスポーツでも多くみられます。
発祥の原因は、使い過ぎや疲労骨折など諸説はありますが定かではありません。
進行すると手関節(しゅかんせつ)が拘縮(こうしゅく)して動かなくなってしまうため、医療機関での適切な診断と治療が必要です。
腱鞘炎(ドケルパン病)
腱鞘炎(けんしょうえん)は、手首の代表的な慢性外傷です。手首や親指の使い過ぎにより、親指の動きに関わる短母指伸筋(たんぼししんきん)と長母指外転筋(ちょうぼしがいてんきん)の腱および腱を取り囲んでいる腱鞘(けんしょう)が炎症を起こすことで発症します。
スポーツでも見られますが、ほとんどは日常的に手を多く使う仕事(調理師がフライパンを振る動作を繰り返すなど)での発生が多くみられます。
昨今、パソコンやスマホで親指を酷使することも多く、それが原因となって発症するケースも見られます。
手の親指の付け根付近に、痛みと熱感、腫れがあり、部位を押したり手首や親指を動かすと、かなりの痛みが出ますので日常生活にも支障が出ることが多くあります。
親指を握り小指側へ手首を傾けると腱や腱鞘が引き延ばされ強い痛みが出るのが特徴です。(図アイヒホッフテスト)
(図アイヒホッフテスト)
また、腱鞘は関節のあるところに多く存在し、手指の曲げ伸ばしで腱と腱鞘がこすれ合い炎症をきたすこともあります。
それが進行すると炎症部分が硬くなり、指を伸ばすときに炎症部分が引っかかり「バネ指(弾発指)」に発展することがあるので注意が必要です。
(短拇指伸筋と長母指外転筋)
アイヒホッフテスト・拇指屈曲テスト
ドケルバン病セルフチェック 「アイヒホッフテスト」親指を上にした状態で腕を伸ばし
親指を握りこんで拳を作ります。
そのまま手首を小指側に曲げて親指の付け根が痛むと陽性です。 指の腱鞘がむくんで厚くなったり硬くなったりすると腱鞘とその中を通っている屈筋腱(くっきんけん)が擦れ合い、炎症のため腫れてきます。
手親指のテーピング
まとめ
手首の痛みは、初期であれば安静と冷却、固定。慢性期でであれば、加温、マッサージ、ストレッチ、電気療法などで回復します。
しかし、日常的に使うことが多い部位のため、長期にわたることも多く、特に仕事で手を使わなければならない方は、治療途中で少し軽快すると作業に復帰し、再び痛みが増悪することを繰り返すため、治療にかなりの時間を費やさなければならない場合も多くみられます。
慢性期の場合、お風呂などで患部を温めて血行を良くし、マッサージやストレッチをこまめにするセルフケアが重要です。
また、サポーターやテーピングで患部を保護し、症状の増悪や再発を防ぐことも必要です。
サポーターは適度に患部を圧迫し、可動を制限し、保温効果もあるので、仕事中などは積極的に使用した方がよいでしょう。
次回予告
人が身体を移動させる機能として重要な役割を持っている「足」についてみていきましょう。
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